人生で初めて男に騙された思い出
生まれて初めて男にだまされたのは、小学校4年生くらいのころだったと思う。
当時一番の仲良しだった女の子の家に、私はしょっちゅう遊びに行っていた。
マンガ本についていた付録をごっそりくれるから、というのも理由のひとつだったが、もちろんそんなことは口にも出さなかった。
とにかく、私は毎日のようにその家におじゃましていた。
彼女には3歳年下の弟がいた。
いま思い出してもこまっしゃくれたチビだった。
余りによく遊びに行くものだから、いつのまにかその弟ともすっかり顔なじみになってしまった。
私とその女の子が遊んでいる周りをちょろちょろしていたように思う。
ちょうどその日は庭で遊んでいた。
テニスボールの先端にゴム糸がついていて、それがラケットにつながっていてテニスのサーブ練習が出来るという、セレブおもちゃ道具(多分おもちゃではない)で遊んだり、庭から門扉への坂道(そう、本当にセレブの家なのだ)を走ってダッシュの練習をしたり、弟込みの三人で楽しく遊んでいた。
あまりに激しく走り回って、みんなで息を切らして一休みしていたとき、その弟がいきなり私に抱きついてきた。
そして私の名前を呼び、「結婚しよう」と言い放ったのだ。
私は、こんな年下のがきんちょに言われたたわいのないプロポーズにどぎまぎしてしまい、色んなことが頭の中を駆け巡ったのを覚えている。
そして口を開こうとしたとき、そのマセガキが「うっそーん」と叫んだのだった。
正味一秒にもみたない一瞬のできごと。
その一瞬のあいだに、私は人生で初めて男にだまされたのである。
忘れようとしても忘れられない、ほろ苦い思い出だ。
そしていまだに、思い出すとちょっとどきどきする。