僕の姉さん

僕にコーヒーを淹れさせると、姉はソファーに寝そべってテレビのチャンネルを替えて歌番組を観はじめた。
ナイター中継がいいところだったんだけど、という僕の言葉は聞こえていないようだ。

メイクを落として眉が半分の長さになった間抜け顔で、塩せんべいを頬張る姉を眺め、僕はため息をついた。
時々、姉が家に連れてくるボーイフレンドたちに、この姿を見せてやりたい。

気の毒なことにボーイフレンドたちは、みな善良かつ、優しそうだ。
僕にも漫画雑誌や菓子を土産にくれる。そしてこっそり姉のことを僕に尋ねるのだ。
欲しがっているものや、行きたがっている場所、誰か特定の人がいるのかを。

僕よりずっと大人の男の人なのに、僕みたいな子どもに相談するなんてどうかしている。
僕は絶対、姉みたいな女の人には騙されないぞ…と、鼻歌を歌いながら足の爪に色を塗り始めた姉を見て誓った。

人のふり見て我がふり直す

ホテルのフロントに勤務している友人によると、謎のカップルが宿泊するのをよく見かけるそうだ。
ラブホテルなどではなく、結婚式場を要しているようなホテル。

友人が一番気になるのが、美少女とおじさんのペア。
少女、といってもよく見たら20代。
かなりの若作りをして、ツインテールにロリータファッションなどをまとっている。
でもよく見なかったら少女に見えてしまうそうだ。
このような組み合わせだと、お金のやり取りがある交際かな?と疑ってしまうそうだ。
フロントの前を通過して食事に行くときに観察したり、部屋まで案内したポーターの話を聞いて、どのような関係なのか探りを入れるんだとか。
すると、案外普通のカップルだった、という結論になるんだとか。
見た目的には、まさに美女と野獣状態。
お金目当てじゃないんだったら、すごいボランティア精神がある女性だ!というぐらい強烈なカップルなんだとか。
そして驚くことに、美少女とおじさんペアが夫婦であることもあるらしい。
ゲストカードを書いてもらうときに同じ名字をみてびっくり。
サービスマンとしての笑みをたたえながら、フロントから見送る。
二人がエレベーターに乗ったところで、フロントスタッフで大騒ぎがはじまる。
おじさんが使うカードのステイタスがかなり高い物であれば、なんとなく理解できるが、本当に普通のおじさんの場合、一体どこに惹かれて結婚したのか、予想ゲームを繰り広げているらしい。
そして、一泊二日の旅程を終えてチェックアウトするまでに、おじさんの「男として良い所」を予想しながら、激務のフロント業務を乗り切っているんだとか。
失礼なフロントスタッフだが、私も働いていたら、絶対その予想に参戦していたと思う。